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日々の好きなものを言葉に紡ぐ

どこでもないどこかへ ショーン・タンの世界展

美術館「えき」にて開催中のショーン・タンの世界展へ行ってきました。

ショーン・タンとは、移民をテーマにしたグラフィック・ノベル『アライバル』が代表作となるイラストレーター・絵本作家。約5年の制作期間を経て発表された『アライバル』は現在23の言語で世界中で出版されています。

 

▪️映画でも見ているかのような見応えのある世界観

代表作とも言える『アライバル』鉛筆のみを使用し、ほぼモノクロで幻想的な世界観とリアリティとを織り交ぜた写実的なタッチは、言葉を使用せずとも各国の移民の人たちにから共感の声が上がったと言います。

展示はアライバルの原本、プロット、構想などの章から始まり、スケッチ、ラフ案、大判の絵画。パステル、油彩・インクなど様々な画材を使った大胆と緻密という一見相半しているような見応えのある展示が並んでいます。

アライバル以外の絵本はほとんど読んでいませんでしたが、それぞれのあらすじというのかシーンの説明とコメントがあり、最後まで楽しく見ることができました。

 

◾️言葉がなくとも伝わる

冒頭でも書きましたように、『アライバル』はほとんど言葉というものがなく映像のような、漫画のような絵が進んでいきます。他の作品も言葉はあるものの、なるべく簡潔に、シンプルに描かれています。

どこの世界にも繋がるようでどこの世界とも違うような、不思議な世界が広がっています。そしてどこか不気味で、でも楽しそうで、確かにそこに生活している人たち、生き物がいる。

言葉に頼らずとも絵から言葉や、音、においが伝わり、かといってうるさいわけでもない。見る人それぞれが思い思いに受け取ることができる。これも世界で愛される理由なのだろうなと思いました。

鉛筆だけの濃淡でデッサンのように描き込みも、そこには無駄な線などなく計算された美しさと洗練された美しさを感じました。先にイメージがあって描くのではなく描きながら考えるのだと、タン氏はおっしゃっていましたが、なんども構想を構築していく上で無駄がそぎ落とされたシンプルさを感じます。単色の中に質感、重さ、色味が鮮やかに見えるようで、様々な角度から読み解くことができる作品だと思いました。

無駄を削ぎ落とし、計算され尽くした表現はまるで「禅」のようだと思いました。

 

◆アライバル

 

◼️大人になってしまった私たちへ

彼の描く世界は全体的に自分の所在を問われている気がして、自分の居場所を見失った時、迷子になった時。そんな時に一緒に旅をしているような、少し力添えをしてもらっているような気持ちになります。

子供時代においてきた、忘れてしまった宝物の吹き溜まりのような懐かしさも感じました。

 

 

開催期間は残り短いですが、アニメーション・漫画・デザインに関わる人にはぜひ見て欲しい展示だと思います。展示は14日まで。

www.artkarte.art